オーガニック

Organic 2006

Five years
5年前に最初の飛行機が世界貿易センタービルのノース・タワー96階に激突したとき、チャールズは向い側に停車していたバスの中に座っていた。
何が起こったのか分らないままバスから降りると、辺りは瞬く間に残骸に覆われ、燃えた書類が降りそそいだ。その直後には警察官や消防士が次々と現れ、チャールズは一人の消防士に現場からつまみ出された。
「僕は毎日あのときの消防士のことを考えてしまう」「彼がその後にどうなったかは想像もつかない」と、チャールズは回想する。その消防士が誰であれ、生き残っている可能性は少ない。当時の犠牲者の10人にひとりはFDNY(New York City Fire Department)の隊員だった。その人数は343名。
5年の歳月が過ぎて今また、川を渡り、海を渡り、グラウンド・ゼロの犠牲者に敬意を払うために人々が集まった。そこには消防士の制服やヘルメット、バッジなどを身に着けた人たちだけではなく、見物人や抗議者たちも多くいる。
「One dollar flags!」と1ドルで星条旗を売り歩く行商人。「誰も憎んではいけない!愛するのです!911を忘れるな!」「これが神の言葉である」と大きな声で叫ぶ女性。「アフガニスタンへの片道旅行」と抗議する人々。そんな中、追悼集会ではチェロの独奏をバックに犠牲者の名前と個人的なメッセージが読み上げられていった。
「あなたの娘と私はあなたがいないのを淋しく思う」「あなたへの私の愛は永遠です」「フライト175、いつまでも共に」「決して忘れないイーストヘイブン消防署」「あなたの新しい孫もあなたを愛しています」
そんな群集をよそにフェンスの横にうずくまる女性がいた。通行人が「大丈夫か」と声をかけると、彼女は「大丈夫」と答えてすぐに目をそらす。30分後、同じ通行人が同じ場所で同じように彼女に問いかけるが、反応は同じだった。そして1時間後、彼女はいなくなっていた。
11 Sep 2006